2016年12月25日

「ハゲ割」がマーケティング戦略として優れている理由 激戦ビジネスホテルにまさかの新手法

おいらの戦略を日経トレンディが分析してくれていますので

まるごと紹介しちゃいます。

がはは。

「ハゲ割」がマーケティング戦略として優れている理由

激戦ビジネスホテルにまさかの新手法


2016年11月21日


 みなさん、こんにちは。ドミノ・ピザ ジャパンの富永です。

 ホテルチェーン「ホテルテトラ」(北海道函館市)が実施している、頭髪のない人や薄い人の宿泊料を割り引く「ハゲ割」が話題になっています。自己申告すれば宿泊料が300円から500円程度安くなるとのこと。





「ハゲ割」を実施する「ホテル テトラ」ではスキンヘッドの三浦孝司社長をモチーフにした人形が出迎える

[画像のクリックで拡大表示]

 その理由を調べてみると、

・ 「掃除の中で排水溝の抜け毛の処理が最も手間がかかる」と話しているのを耳にした同社の三浦孝司社長が、髪がない人の宿泊料を安くしようと即決
・ 「ハゲ」に明確な基準はなく、生え際が後退しているだけの人は微妙ながら「自ら申し出た勇気をたたえ、あまり厳密にはしない」としている

など、面白いストーリーが見て取れ、興味をそそられます。

 しかし、一方でこの企画は条件によって料金をディスカウントする、という立派なプロモーション。その観点からは単純に面白いだけではなく、ビジネス上きちんとした結果が期待されるべき。そこで、本稿ではこのユニークな企画のマーケティング的な意義・効果などについて考察してみたいと思います。

ビジネスホテルがハード以外で差異化するのは困難

 みなさんは出張などでビジネスホテルを選択するとき、どのような基準で決めているでしょうか。おそらく、最も重要なポイントとしての料金と、立地・部屋の広さ・温泉などの設備、朝食などの付随サービス、接客などソフト面のサービスを勘案して決めていく、というのが一般的な意思決定のプロセスなのかと思います。

 ここから見えてくることは、ビジネスホテルの競争は「立地」「部屋の広さ」「温泉などの設備」など、一度確定してしまうと変更がなかなか難しい要因に影響されるため、これらのポイントで競合に後れを取ってしまったプレーヤーは料金や付随サービスで差異化を狙わなければならず、厳しい戦いになるということです。

 ホテルが差異化ポイントとして後から採用できる選択肢は、(1)競争力のある料金の提示、(2)付随サービスの向上、(3)接客サービスの向上という3つのレバーのどれかということになります。

 このうち、(2)については、ビジネスホテルの中で朝食を打ち出しているところも多いところから、常道という印象を受けます。

 しかし、

・ 朝食が売りのポイントとして認知され、差異化の源泉となるためには、品数やクオリティー、ユニークなメニューなどある程度の特色が必要
・ 競合にコピーされやすく、そうなると差異化のポイントを失ってしまう
・ 競合を上回るメニュー開発合戦といった過剰競争が始まり、コスト圧力になる
・ 顧客が体験した朝食のクオリティーはその施設のサービスの基準点となり、次回利用時にそれがないと大きな顧客不満足要因になるので、サービスの質を簡単に下げられない

などの観点から、直観的に思うほど簡単な施策ではない、と考えられます。

 では、(3)の接客サービスの向上はどうでしょうか。

 これは、小売り・外食など店舗を保有する企業のオペレーション・マーケティングをやっている方なら、「それが簡単にできれば苦労しないよ」という実感があるのではないでしょうか。

 なぜならば、

・ サービスレベル向上のためには、マニュアルの整備といった形式もさることながら、その目的を理解し、動機付けを行うなど、マインドセットの変化が必須
・ 何百人〜何千人にわたる従業員全員のマインドセットを変えるのは非常に難しい

といった属人的なハードルがあるからです。

これに加え、

・ 接客サービスといった無形のものはマーケティングしにくく、それらが認知されるまで時間がかかりやすい
・ 接客サービスは料金・設備・付随サービスに比べて決定要因としての力に欠ける

などの要素から、これも決め手とはなりにくいといえるでしょう。
「魅力的な価格差」と「泥仕合」の境目は?

 では、(1)の料金・プライシングはどうでしょうか。価格はホテルの選択に影響を与える最も強いドライバーであり、これを戦略的に行えば競合から顧客を奪取することは可能です。

 しかし、そのためには、

・ 競合との価値差を補ってかつ魅力的な価格差を提示する必要がある
・ 朝食と同様に競合による値合わせ→再値下げ、という泥仕合のサイクルになりやすい

といった課題・問題をクリアする必要があり、見通しなく実施するのは危険です。

 もう少しこの「魅力的な価格差」と「泥仕合」について考えてみましょう。

 みなさんはビジネスホテル一室の宿泊料金について、具体的にいくらの差がついていたら「こちらのほうが安い」と感じますか。この質問は、実際の選択肢決定の場面をイメージすると、意外に複雑であることが分かります。

 一泊の料金相場が9000円くらいだとして考えてみましょう。

 ホテルA 9500円
 ホテルB 9000円
 ホテルC 8000円

 このなかでは、ホテルCの価格は安く感じられます。きん差であるAとBのうちで安いBの9000円が参照点になり、AとBの価格差500円と比べ、BとCの価格差1000円のほうが大きく感じられる、というのがその知覚のプロセスでしょう。みなさんがホテルCの支配人であれば、このプライシングは成功であるといえそうです。

 では、これだとどうでしょうか。

 ホテルA 9500円
 ホテルB 8500円
 ホテルC 8000円

 変化としてはBのみが500円値下げをした、ということになりますが、このときに最低価格であるホテルCの価格的な魅力は微妙に変わるのではないかと思います。なぜならば、この値付けではAの価格が突出して高く感じられ、AとBの差1000円と比較してBとCの差500円が小さく感じられるからです。これだと「500円差ならBにしてみようかな」という意思決定をする顧客もいそうです。

 ではこれならどうでしょうか?

 ホテルA 9250円
 ホテルB 9000円
 ホテルC 8500円

 最初の事例からすれば、ホテルCの価格が魅力的に映るということになりそうですが、そこまでの実感はありませんよね。これは、9000円というそもそもの値ごろ感に対して、500円という価格差が持つインパクトと1000円のそれでは全然違うということに起因します。

 どういうことでしょうか。

 実生活の中で、クルマのような高価格な商品の価格交渉は5〜10万円単位で考えるのに、洋服の買い物では1000円単位にこだわりたくなる、ということはよくありますよね。財布は一つなのに場面によってこだわる金額の境目が違うというのは一貫性を欠いた行動であるように感じられますが、これは以前もこのコラムで取り上げた

(1) メンタルアカウンティング(人は自分の財布を心理的なパーティションで仕切っており、買い物の性質によって使い分けている)
(2) 人間は絶対価格よりも比率に反応しやすい

 という人間の2つの特性により説明できます。

 価格差についての話をまとめましょう。

 ここから示唆されることは、

・ 価格差は相対的に知覚されるので、複数いる競合の全価格を捕捉し、どこと比べられた場合はどうというち密なシミュレーションをしたうえで価格設定したほうがよい
・ 魅力的な価格の目安としては、自社に最も近い価格の競合よりも1000円程度の価格差が必要であると思われる

ということです。

 しかし、ホテルの宿泊料金は需要によって大きく変動します。大きく変動する競合の価格を調べ、上記のようなち密な値付けを行い、魅力的な価格差を提示しつつ価格設定するのは、一筋縄ではいきません。

 また、「1000円の価格差」と気軽に書きましたが、9000円程度の商品を1000円値引くと単純に売り上げの11%が吹っ飛ぶ計算になります。当然ですが利益はさらに大きな割合が失われることになり、インパクトが大きいといわざるを得ません。

 それに加え、泥仕合の要素が価格設定に加わってきます。回りの価格を見ているのは競合も同じこと。なので、お互いの価格が魅力的に見えないように価格変更を繰り返していくと価格は下方に向かうことになり、ビジネス全体の収益性が下がります。
競合に試合放棄を促す「最低価格保証」

 このような悪循環を回避するためには、市場に対する強いコミットを示し、競合に試合放棄してもらうという戦略もあります。具体的な例としては、家電量販店などがよく実施している「最低価格保証」がそれです。

 これは、ホテルの予約時によく表示される最低価格保証(ホテルAについて、ほかのどのサイトよりも安く予約できるというチャネル間の競争)とは異なり、市場の中で自社ホテルが最も安いとコミットすることです。これは、競合が価格競争を仕掛けてきてもやり返す、というコミットにほかならず、こうすることで競合が価格競争を仕掛けてくることを未然に回避しよう、という考え方です。

 しかし、実際にはホテルの価格差は価格の魅力以外に価値の差も含んでいるので、一つのモノサシで測ることは事実上不可能。泥仕合的な価格競争を回避することは、やはり簡単ではありません。

 これらの観点から、「ハゲ割」を考えてみましょう。ハゲ割は、いくつかの観点からとても優れたプロモーションであると考えます。

 第一に、このアイデアはユニークであり、このアイデア自体がホテルテトラという企業・ホテルの差異性になります。メディアなどを介して話題になることにより、同社はハゲ割と自社の間に強い結びつきを作り、競合が同じことをやってきても明らかな2番煎じに見えるような認知形成に成功しかけているのではないでしょうか。つまり、ユニークであるがゆえ、簡単なメカニクスながら模倣に強いということです。

 また、このユニークさゆえに、「一度行ってみよう」というモチベーションを喚起できるかもしれません。私自身、実際にフロントでどのような対応が行われるのかということに興味津々で、それを確認するためだけに一度泊まってみたいと感じるほどです。

 ついでに指摘しておくと、企業としてのビジネスホテルに潤沢なマーケティング予算があることはあまり多くなく、広告を大規模に打つことは簡単ではありません。そんななか、ハゲ割は広告に頼らず、メディアでニュースとして扱われることによって広く認知形成・興味喚起を達成しており、洗練されたコミュニケーションデザインといえると思います。ウェブサイトなどに提示する価格からさらに条件付きで値引くというメカニクスと、ハゲかどうかというユニークなモノサシで値引きを提示することにより、値ごろ感との対比・比較をうまく回避できている点も巧みです。

 また、先ほど筆者は「自分も行ってみたくなった」と述べましたが、実際に頭髪が薄い人の立場に立ってみると、これは頭髪が薄いことに対して付与された一種の特典です。ゆえに、このホテルに泊まらず別の施設を選択することは、権利を放棄するような心理になるのではないか、と考えます。行動経済学の回で指摘した「保有効果」(一度獲得したものを手放したくないという心理効果)によって、ハゲの人がホテルテトラの施設を選択するモチベーションはかなり高いのではないかと思います。

 さらに、条件付きプロモーションの常として、条件に漏れた場合の損失感(あとひとつで届かなかったスタンプラリーを想像してもらえれば実感いただけるかもしれません)という課題があります。しかし、ハゲ割の場合は、条件に漏れたら漏れたで、人から見てそれほどハゲていないというユーモラスな太鼓判がもらえるわけで、特典を獲得できなかったネガティブな感情形成を絶妙に回避できそうです。

 これらのことから、ハゲ割は一見奇抜なアイデアのように見受けられますが、その実は差異化が難しいビジネスホテルが編み出した戦略的な妙手なのではないか、と筆者は考えています。





わたなべ りょう / PIXTA(ピクスタ)

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著 者

富永朋信(とみなが とものぶ)

プロフェッショナルマーケター。
日本コダック(現コダック)、日本コカ・コーラ、ソラーレホテルズアンドリゾーツ、西友などでマーケティング関連の職務を歴任。日本コカ・コーラではiModeでコカ・コーラが買える自販機システム「Cmode」の立ち上げを担当。それ以来、「購買=ブランド選択+チャネル選択」という式の解を模索し続けている。西友では同社のイメージを一変させるキャンペーンを連発した。ブランドの構造はカテゴリによって違うことに気付き、全てのカテゴリのブランド構築に対応できる方法の開拓に頭を悩ませている。座右の銘はたくさんあるが、今のお気に入りは「過ぎたハンサム休むに似たり」「渾身のアイデアは全てを解決する」。
posted by 烏賊す社長 at 21:41| 北海道 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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